モチベーション
気温0℃
師走。
朝の覗き込むような日差しと痺れる空気、冬の声を感じる。
まだ上がりきらない気温に感じるほんの少しの煩わしさと、乗る楽しみを量りにかけ日々ドアを出る。
この季節には景色の見え方が少し違う、
透きとおり輪郭がクリアになる。
澄んだ空気か低い日差しが原因かは定かではないが、この冬の視界は僕好みだ。
日の当たる交差点で温かさを感じるたび嬉しくなる。
通勤に使うルートは何通りか考えてあって、その日の気分で変えながら毎日仕事に向かっている。
・・・・その日の帰りは、普段あまり通ることの無い街中の道を走っていた。
ルートとしては明るく安全なのだが、いかんせん交通量が多い、なんとなく寂しい時などは良いのだが普段は避けている道だ。
道半ばを過ぎたころ、目の端に白っぽい影が映った。
「!!!」
スピードを緩めて振り返ると白い自転車を止め近くに女性がいる。
「大丈夫ですか??」
声をかけた。
25歳くらいだろうか、小柄で目のぱっちりした女性だ。
可愛い
スーツ姿だから会社の帰りだろうか?後輪近くにしゃがんでいる。
覗き込むと上着を後輪に巻き込んでしまった様子だった。
「あ〜、手伝いましょうか?」
「え、あ、ありがとうございます」
ライトで照らしながらゆっくりと上着を外していく。
けっこう強めに巻き込まれている。
「・・・取れそうですか?」
覗き込む彼女の顔が近い。
少し緊張して答えた。
「はい、たぶん大丈夫そうですよ。」
絡まったコートを外しながら目の端にとらえたはにかんだ笑顔に若さを感じる。
近くに住んでいるのだろうか・・・
5分ほどかけてゆっくり汚れないように外していく、
少し擦れた後があるがどうにか外れそうだ。
「よかったですね。」
「はい、わざわざありがとうございました。」
外したコートを手渡し、少しの下心が見透かされないうちにその場を後にした。
「・・・名前ぐらい聞いてもよかったかな?・・・」
この日以降、
普段通らないこの道を帰り道に選ぶようになった・・・
あー、こんな出会いないかなぁ。おわり。